値引と損害賠償金の違いについて
トレードを行っている商社では、日々膨大な回数の取引を行っており、販売した商品になんらかの問題がありクレームを受けることは残念ながら日常茶飯事となっております。
商品を外国から輸入しててきて、そのままお客さんの所へ届けられる取引が多くあり、途中で検品等はできないためどうしても不良品は出てきてしまいます。これは輸出の場合であっても同様です。
販売した商品に何らかの不具合があった場合、返品になる場合や、時には損害賠償金を請求されることもあります。
返品の場合は商品がそのまま売上先から仕入先に送り返され、代金もそのまま全額返金となることが多いので、経理処理も販売時の逆の処理をすればよくシンプルですが、
値引や損害賠償金は、取引内容を慎重に見極めることが重要となります。
値引か?損害賠償か?
商品に不具合があった際に、商品代金の一部を返金(または減額、相殺)することとなった場合、それが商品の「値引」なのか、「損害賠償金」なのかの線引きが曖昧なことが多く見受けられます。
通常「値引」というと、商品のちょっとした不具合による減額や、在庫を早く減らしたいなどの戦略的判断や、季節的な要因に由来することが多いです。
「損害賠償金」というと、機会損失の補填や、あるいは心情的な理由に由来することが多く見受けられます。ちゃんとした商品が来なかったせいで、予定通り売れずに損したから金払え!的なことですね。
「値引」の場合は、商品のちょっとした不具合による減額、戦略的判断によることが多いので、当然ながらもともとの販売金額を超える金額は有り得ないこととなります。
一方、「損害賠償金」の場合は、もともとの販売金額を超えることも想定されます。
これは顕著な違いだといえます。
しかし、「損害賠償金」であっても商品金額を超えるような減額を請求されることは稀ですので、実務上の判断基準としてはあまり有効ではありません。
結局のところ、「値引」なのか、「損害賠償金」なのか、その取引の実態を都度判断することになります。
これが結論なのですが、実務上ひとつひとつの判断は困難です。実際、どっちともとれるようなことが実務上では多々あるのです。
金額基準の設定検討
そこで、私の会社では「値引」か「損害賠償金」か判断が困難なものについては、金額基準を設けて経理処理を行っております。
あくまで判断が困難なものに限ってですが、例えば、”300万円までは値引で処理可能” といったものです。
この金額基準については、会計監査人と事前に擦り合わせをし了承を得ております。
基準額は会社の売上高や純利益、業界、規程などに応じ、異なることが予想されます。
監査法人によっては金額の基準を設けることに了承を得られないこともありますので、あらゆる会社でも使えるものではないかもしれませんが、実務のご参考にしていただければと思います。
経理処理(消費税の取扱)の違い
一般的に「値引」の場合は売上の減額なので国内取引においては課税売上のマイナスとなりますが、「損害賠償金」の場合は、対価性がないため課税対象外取引となります。
国税庁タックスアンサーによると、
No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例
[令和2年4月1日現在法令等]
消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供(以下「資産の譲渡等」といいます。)が課税の対象となります。
したがって、次のような取引は、課税の対象となりません。
(1) 給与・賃金・・・・雇用契約に基づく労働の対価であり、「事業」として行う資産の譲渡等の対価に当たらないからです。(2) 寄附金、祝金、見舞金、補助金等・・・・一般的に対価として支払われるものではないからです。
(3) 無償による試供品や見本品の提供・・・・対価の支払いがないからです。
(4) 保険金や共済金・・・・資産の譲渡等の対価といえないからです。
(5) 株式の配当金やその他の出資分配金・・・・株主や出資者の地位に基づいて支払われるものであるからです。
(6) 資産について廃棄をしたり、盗難や滅失があった場合・・・・資産の譲渡等に当たらないからです。
(7) 心身又は資産について加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金・・・・対価として支払われるものではないからです。しかし、損害賠償金でも、例えば次のような場合は対価性がありますので、課税の対象となります。
イ 損害を受けた棚卸資産である製品が加害者に引き渡される場合で、その資産がそのままで使用できる場合や、軽微な修理をすれば使用できる場合
ロ 無体財産権の侵害を受けたために受け取る損害賠償金が権利の使用料に相当する場合
ハ 事務所の明渡しが期限より遅れたために受け取る損害賠償金が賃貸料に相当する場合
国税庁HPタックスアンサーより
値引か損害賠償金かで消費税額が変動するので、慎重な判断が必要です。
会計監査人と擦り合わせた金額基準があったとしても、税務上はその基準は関係ないのでやはり取引内容を慎重に見極める必要があることには変わり有りません。
なお、あくまでも私の経験上ですが、過去の税務調査対応において「値引、損害賠償金」の経理処理について指摘を受けたことはありません。
クレームは毎月のように発生していることなので、調査官の方々は「値引・損害賠償金」に関する証憑を必ず確認しているはずです。(今後も指摘がないかはわかりませんが)
もしも今後の税務調査等で指摘を受けたとしたら、調査官の方々にこの辺りの考え方について聞いてみたいなと思います。税務調査官というとちょっと恐いイメージがありますが、質問をすると丁寧に回答いただけます。真面目な方が多く真剣に対応いただけることが多いですね。(これもあくまでも私の経験上ですが)
まとめ
● 「値引」、「損害賠償金」は取引毎に慎重な判断が必要
● 損害賠償金は対価性がないため課税対象外(不課税)
● 実務上は判断が困難なものに限り、金額基準を設けることもある
実務の際は、顧問税理士、会計監査人に相談の上、慎重に経理処理を行いましょう。